自営業(個人事業主)の節税対策
自営業(個人事業主)の節税対策の基本は、「経費節減」と「所得控除の活用」です。会社員と自営業の年収1,000万円の生涯手取り額の差は、 同一条件の場合(20~60歳の40年働いた場合)、約7,900万円にも及びます。
しかし、節税対策をすることで、 会社員と遜色のない、あるいは、会社員よりも多くの手取り・収入を得る方法があります。
ここでは、自営業の節税対策のうち「所得控除の活用」に関わる内容について、 その方法と、節税効果について、紹介しています。
ご注意:
- 以下に紹介する内容は、年収1,000万円(20歳~60歳まで自営業)の場合の節税効果について紹介しています。
- 所得税率は年収によって異なるため、 年収が1,000万円より少ない場合、節税効果は低くなる可能性が、 また、年収が1,000万円より多い場合、節税効果は高くなる可能性があります。
- 2016年(平成28年)の実際の各機関が公表している数字を利用しています。 その他計算に利用した数字については、ページ最下部の備考をご参照下さい。
自営業者はなぜ節税対策が必要なのか
自営業者は会社員と比較すると、同じ就労期間(40年)働いた場合、 同じ年収1,000万円でも、生涯収入が7,900万円も少なくなります。(詳しくは自営業(個人事業主)の年収1,000万円と会社員の年収1,000万の違いをご参照下さい。)
勤労期間40年間(20~60歳)は、 手取り額が年間71万円(40年間合計で2,840万円)少ないだけですむものの、 退職後、60歳から83歳(日本人の平均寿命)の23年間では、 手取りが5,000万円以上少なくなります。
これは、仮に自営業者が会社員と同じ60歳で廃業してしまった場合、 生活保護費よりも少ない年金受取額しかもらえないことを意味します。
そのため、 この会社員との手取りの差額「7,900万円」を埋めるためには、 各種経費節減をする以外に、以下の様な節税対策が重要になります。
自営業の節税対策は人生トータルで考える
自営業者の節税対策は、「その年の税金を減らす」+「将来受け取る所得を増やす」ことです。一例を挙げると、「付加年金」に加入した場合、14万円(40年合計額)の出費で172万円(18年合計額)の年金上乗せがあるため、 生涯の収入は158万円増えます。
この付加年金は株式などの投資リスクもなく(元本保証)、 銀行よりも利率が高い(投資利益率900%)ため、 節税対策としては非常に有益です。
このようにリスクがなく(途中解約の場合、元本割れがある制度もあります。詳細はおのおのの説明をご参照下さい。)、 節税対策ができる以下の公的・私的商品について、紹介しています。
自営業者の節税対策
■年金
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■退職金
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以下、おのおのの商品について、紹介しています。
ただし、 「青色申告特別控除」と「寄付金控除」については、 専門サイト様が内容を詳しく紹介しているため、省略しています。
青色申告特別控除でどの程度節税できるかについては、 個人事業主 税金・社会保険料計算シュミレーション 白青申告差額つきをご参照下さい。
付加年金
付加年金とは
付加年金とは、日本年金機構が運用する定額年金制度です。毎月わずか400円(固定定額)だけ、 国民年金にプラスすることで、 将来受け取れる年金額が多くなる制度です。
この制度に加入すると、 65歳からの年金受け取り時、 「200円×納めた月数分」年金受取額が増えます。
具体的な例を挙げると、 20歳~60歳までの40年間、付加年金を収めた場合、 200円(固定値)×480ヶ月(40年:納付月数)=96,000円を毎年、死ぬまで受け取ることができる、 非常に利率の高い商品と言えます。
付加年金による節税効果(毎年の節税額と手取り額)
付加年金 | 差額 | ||
なしの場合 | ありの場合 | ||
年収 | 10,000,000(共通) | 0 | |
健康保険料(※1) | 730,000 | 730,000 | |
介護保険料(※2) | 0 | 0 | |
年金(※3) | 195,120 | 195,120 | |
付加年金 | 4,800 | -4,800 | |
所得税(※4) | 1,214,120 | 1,213,200 | -920 |
住民税(※5) | 812,300 | 812,000 | -300 |
個人事業税(※6) | 355,000 | 355,000 | 0 |
手取り額 | 6,693,460 | 6,689,880 | -3,580 |
上記表の内容を文字で表現すると、 20歳~60歳までの40年間は、 付加年金による負担(4,800円/年)が増える一方、 付加年金は「全額、所得控除の対象」となるため、 所得税と住民税が合計1,220円(920円+300円)安くなり、 手取りそのものは、3,580円しか減りません。
これは言い換えると、 1年あたり3,580円(4,800-1,220円)で付加年金に加入できることを意味します。
付加年金による生涯年収の増加
また、これを生涯年収に直すと、 20~60歳までの40年で143,200円(付加年金の実質負担額:3,580円×40年)を支出し、 65歳~83歳(日本人の平均寿命)の18年間で1,728,000円(年金増加額:96,000円/年×18年)を得ることができることを意味します。これは生涯収支で考えると、1,584,800円(1,728,000円-143,200円)得をする計算になります。
※備考:付加年金はあまりにも利率が良いため、 当サイトの表記ミスあるいは計算ミスと思われる方もいると思いますが、 付加年金は「2年の加入で元が取れる」ことを売りにした、利率の非常に高い公的年金です。
付加年金のメリット・デメリットまとめ
■メリット
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国民年金基金
国民年金基金とは
国民年金基金も付加年金同様、 国民年金にプラスすることで、 将来受け取れる年金額が多くなる公的な年金制度です。商品の種類がA/B型、及び、Ⅰ~Ⅴ型の合計7種類があり、 これらを組み合わせて、最大68,000円/月(816,000円/年)を納付することができます。
国民年金基金の特徴
A/B型とⅠ~Ⅴ型の違いは、「A/B型」は終身(死ぬまで)年金を受け取ることができ、
Ⅰ~Ⅴ型は受け取る期間が5~15年と固定されていることです。 上記を前提として、途中で死亡した場合の対応が別れるのがA型とB型で 支給開始年齢(60,or,65歳)と支給期間(5~15年)が異なるのが、Ⅰ~Ⅴ型の特徴です。 ■終身年金
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商品の種類(A/B、Ⅰ~Ⅴ)、運用額、納付月数(年数)によって受け取る年金額(利益率)は異なるものの、 この国民年金基金も「全額所得控除の対象」となるため、 節税効果は非常に大きくなります。
国民年金基金による節税効果(毎年の節税額と手取り額)
20歳、掛金月額:66,690円、(A型18口)で契約した場合国民年金基金 | 差額 | ||
なしの場合 | ありの場合 | ||
年収 | 10,000,000(共通) | 0 | |
健康保険料(※1) | 730,000 | 730,000 | |
介護保険料(※2) | 0 | 0 | |
年金(※3) | 195,120 | 195,120 | |
国民年金基金 | 800,280 | -800,280 | |
所得税(※4) | 1,214,120 | 1,030,120 | -184,000 |
住民税(※5) | 812,300 | 732,300 | -80,000 |
個人事業税(※6) | 355,000 | 355,000 | 0 |
手取り額 | 6,693,460 | 6,157,180 | -536,280 |
上記表の内容を文字で表現すると、 20歳~60歳までの40年間は、 国民年金基金による負担(800,280円/年)が増える一方、 国民年金基金は「全額、所得控除の対象」となるため、 所得税と住民税が合計264,000円安くなり、 手取りそのものは、536,280円しか減りません。
これは言い換えると、 1年あたり536,280円(800,280-264,000円)で国民年金基金に加入できることを意味します。
国民年金基金による生涯年収の増加
上記の国民年金基金は、 65歳~死ぬまで毎年2,280,000円(A型18口40年納付の場合)を受け取ることができます。これを生涯年収に直すと、 20~60歳までの40年で21,451,200円(国民年金基金の実質負担額:536,280円×40年)を支出し、 65歳~83歳(日本人の平均寿命)の18年間で41,040,000円(A型18口40年納付の場合)を得ることができることを意味します。
これは生涯収支で考えると、19,588,800円(41,040,000円-21,451,200円)、得をする計算になります。
国民年金基金のメリット・デメリットまとめ
■メリット
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個人年金保険(生命保険会社)
個人年金保険(生命保険会社)とは
個人年金を運用する会社は多いものの、 その中でも、 利率が高く、元本保証(契約時に何歳でいくら受け取れるか、金額を保証してくれる)を謳っているのが、 生命保険会社が売り出している個人年金(以下、個人年金保険という)です。この個人年金保険の最大の特徴は、 名称に「年金」とついているものの、 年金のように65歳の受給開始を待つ必要がなく、 商品によっては、最小10年の運用で年金を受取ることができます。 (受給開始年齢は契約時に決めることができます。)
そのため、20歳から個人年金保険を始めた場合、 最小なら30歳で年金を受け取ることができ、銀行の定期預金に非常に似た性格を有します。
また、ほとんどの個人年金保険は、 利率が105%~130%程度と銀行預金と比較すると非常に高く、 かつ、元本が保証されているため、 長く利用する予定のない余剰資産がある場合、 銀行預金より圧倒的に利率が良い、という特徴があります。
また、この商品は付加年金、国民年金基金、小規模共済基金(以下説明あり)とは異なり、 自営業、個人事業主以外でも、 全ての人(会社員、公務員など)が加入することができます。
ただし、 「国民年金基金」や「小規模企業共済」とは異なり、 あくまで「生命保険」扱いのため、 「個人年金保険の所得控除は掛け金によらず、最大4万円しか控除することができません」。
そのため、リターンは大きいものの、 所得税、住民税を安くするという節税効果そのものは、 あまり大きくありません。
個人年金保険による節税効果(毎年の節税額と手取り額)
住友生命が販売している「たのしみワンダフル」に50,000円/月(年額:60万円)に加入した場合。個人年金保険 | 差額 | ||
なしの場合 | ありの場合 | ||
年収 | 10,000,000(共通) | 0 | |
健康保険料(※1) | 730,000 | 730,000 | |
介護保険料(※2) | 0 | 0 | |
年金(※3) | 195,120 | 195,120 | |
個人年金保険 | 600,000 | -600,000 | |
所得税(※4) | 1,214,120 | 1,204,920 | -9,200 |
住民税(※5) | 812,300 | 808,300 | -4,000 |
個人事業税(※6) | 355,000 | 355,000 | 0 |
手取り額 | 6,693,460 | 6,106,660 | -586,800 |
上記表の内容を文字で表現すると、 20歳~60歳までの40年間は、 個人年金保険による負担(600,000円/年、50,000円×12ヶ月)が増える一方、 個人年金保険は「年額最大40,000円までは所得控除の対象」となるため、 所得税と住民税が合計13,200円安くなり、 手取りそのものは、586,800円しか減りません。
これは言い換えると、 1年あたり実質負担586,800円(600,000-13,200円)で個人年金保険に加入できることを意味します。
個人年金保険による生涯年収の増加
上記の個人年金保険の受取額は、個人年金保険を販売する生命保険会社と、 その商品(納付年数、受取開始年齢、受取終了年齢)によって異なります。上記同様、 住友生命が販売している「たのしみワンダフル」に年額600,000円(50,000円/月)で40年間加入した場合、 個人年金保険の受取額は、65歳~75歳までの10年間(受給期間を10年に設定した場合)で、 3,234万円受け取ることができます。
これを生涯年収に直すと、 20~60歳までの40年で23,472,000円(個人年金保険の実質負担額:586,800円×40年)を支出し、 60歳~75歳の10年間で、32,340,000円を得ることができることを意味します。
これは生涯収支で考えると、8,868,000円(32,340,000円-23,472,000円)、得をする計算になります。
個人年金保険(生命保険)のメリット・デメリットまとめ
■メリット
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小規模企業共済
小規模企業共済とは
小規模企業共済とは、国が作った「経営者の退職金制度」です。毎月の掛け金は最大7万円まで、年額最大84万円(7万円×12ヶ月)まで掛けることができ、 付加年金、国民年金基金同様、「全額所得控除の対象」となるため、 節税効果は非常に大きくなります。
小規模企業共済による節税効果(毎年の節税額と手取り額)
年額84万円(掛け金最大値)で運用した場合小規模企業共済 | 差額 | ||
なしの場合 | ありの場合 | ||
年収 | 10,000,000(共通) | 0 | |
健康保険料(※1) | 730,000 | 730,000 | |
介護保険料(※2) | 0 | 0 | |
年金(※3) | 195,120 | 195,120 | |
小規模企業共済 | 840,000 | -840,000 | |
所得税(※4) | 1,214,120 | 1,020,920 | -193,200 |
住民税(※5) | 812,300 | 728,300 | -84,000 |
個人事業税(※6) | 355,000 | 355,000 | 0 |
手取り額 | 6,693,460 | 6,130,660 | -562,800 |
上記表の内容を文字で表現すると、 20歳~60歳までの40年間は、 小規模企業共済による負担(840,000円/年)が増える一方、 小規模企業共済は「全額、所得控除の対象」となるため、 所得税と住民税が合計277,200円(所得税:193,200+住民税:84,000)安くなり、 手取りそのものは、562,800円しか減りません。
これは言い換えると、 1年あたり562,800円(840,000-277,200円)で小規模企業共済に加入できることを意味します。
小規模企業共済による生涯年収の増加
上記の小規模共済の受取額は、納付年数によって異なります。20年の納付で全額(100%)給付、40年納付で110%の給付と、 非常に良い利率となるものの、 7年未満の場合は、納付額の80%しか支給されません。
ここでは、20歳~60歳の40年間で算出しているため、 60歳時点で、36,960,000(40年の納付の場合、110%リターン)の退職金を受け取ることができます。
これを生涯年収に直すと、 20~60歳までの40年で22,512,000円(小規模企業共済の実質負担額:562,800円×40年)を支出し、 60歳の退職月に36,960,000円を得ることができることを意味します。
これは生涯収支で考えると、14,448,000円(36,960,000円-22,512,000円)、得をする計算になります。
小規模企業共済のメリット・デメリットまとめ
■メリット
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備考:
※1:健康保険料について
※1:健康保険料について
- 自営業の健康保険料は、平成28年分の全ての自治体の保険料の上限額(73万円)で計算しています。
- 介護保険料は未加入で計算しています。
- 自営業の年金(国民年金)は、平成28年分の1か月あたり国民年金保険料(16,260円)をもとに算出しています。
- 所得税には、復興所得税は含まれていません。
- 自営業の前年支払った社会保険料は今年度と同額、人的控除は本人基礎控除のみ(38万円)で計算しています。
- 自営業の所得税は、青色申告特別控除とし、個人事業主 税金/社会保険料計算シュミレーションから算出しています。
- 住民税の税率は10%(市民税:6%、県民税:4%)で計算しています。
- 住民税の均等割り額は5,500円(市民税:3,500円、県民税:2,000円)で計算しています。
- 個人事業税の税率は5%(ほとんどの業種に当てはまる)で計算しています。
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