個人事業主の年金対策


個人事業主が貰える年金(国民年金)は、 会社員が貰える年金(厚生年金)と比較すると、 1/2~1/4程度しかありません。

そのため、しっかりとした年金計画を立てないと、 老後の生活費が大幅に不足します。

ここでは、個人事業主が貰える年金を増やす方法について、 調査しています。

■目次

なぜ貰える年金を増やした方が良いのか

年金を増やした方が良い理由
  • 国民年金(老齢基礎年金)の受給額が年々下がっている
  • 老後の生活費が国民年金(老齢基礎年金)だけでは足りない
  • 個人事業主は収入に対する節税効果が大きい

国民年金(老齢基礎年金)の受給額が年々下がっている

個人事業主が貰える年金は、国民年金(老齢基礎年金)だけです。

この国民年金は掛け金(支払)額は毎年上がっているものの、 受給額は少しずつ減っています。(本来は物価スライドで上がるはずなのですが。)

具体的には、平成17年には、年金受給額は66,208円/月でしたが、 平成30年現在の年金受給額は64,941円/月で、 13年間で-1,267円/月(-15,204円/年)も年金受給額は少なくなっています。

国民年金(老齢基礎年金)受給額の推移
年度 受給額(月) 増減(月) 増減(年)
平成17年 66,208円
平成18~22年 66,008円 -200円 -2,400円
平成23年 65,741円 -267円 -3,204円
平成24~25年 65,541円 -200円 -2,400円
平成26年 64,400円 -1,141円 -13,692円
平成27~28年 65,008円 +608円 +7,296円
平成29~30年 64,941円 -67円 -804円
合計 -1,267円 -15,204円

備考、参照:
※厚生労働省「マクロ経済スライドってなに?」
※厚生労働省「報道発表資料 平成○○年度の年金額について(○○には年度が入ります)」

年金だけでは、生活できない

総務省によると、 高齢者無職単身世帯(60歳以上)の1ヶ月平均支出額は148,358円です。

また、高齢者無職(年金受給)世帯(2人以上)の1ヶ月平均支出額は246,085円です。

一方、個人事業主が貰える年金額は、 一人あたり64,941円、配偶者が年金に加入していても129,882円(64,941円×2人)で、 収入が年金しかない場合、毎月大幅な赤字になります。

単身世帯の老後の家計収支(月)
収入(年金) 64,941円
生活費(平均) 148,358円
不足額 -83,417円


2人以上世帯の老後の家計収支(月)
収入(年金2人分) 129,882円
生活費(平均) 246,085円
不足額 -116,203円


また、この総務省の資料では、 住居費平均額はわずか15,372円のため、 老後が借家の場合、さらに多くの生活費がかかり、不足額が増加します。

備考、参照:
※総務省統計局「高齢者の家計(高齢無職世帯家計収支(平成25年:二人以上の世帯))」
※総務省統計局「総世帯及び単身世帯の家計収支 (年齢階級別家計支出(単身世帯)-2017年-)」

節税対策になる

個人事業主の年金対策は、 運用益によって貰える年金額が増えることも大事ですが、 それ以上に、所得控除によって税金が安くなることが最大の特徴です。

その浮いた税金分を、将来への貯金や他の資産運用に利用できるからです。

この所得控除の効果は非常に大きく、以下で紹介するほとんどの年金対策が、 全額所得控除の対象になります。

例えば国民年金基金と小規模企業共済で、合計84万円/年に加入した場合、 年収200万円でも年間9.2万円、年収300万円で年間12.6万円、年収1,000万円だと27.7万円も税金が安くなります。

年金対策による節税効果
年収 所得税 住民税 節税額合計
100万円 0 0 0
200万円 28,180 63,860 92,040
300万円 42,000 84,000 126,000
400万円 63,140 84,000 147,140
500万円 84,000 84,000 168,000
600万円 168,000 84,000 252,000
700万円 168,000 84,000 252,000
800万円 168,000 84,000 252,000
900万円 169,618 84,000 253,618
1,000万円 193,200 84,000 277,200


備考、参照:
計算は、以下の条件で計算しています。
※単身世帯 青色申告特別控除(65万円)を適用
※国民年金基金と小規模企業共済に加入(年額84万円)した場合と未加入の場合を比較

以下、加入、未加入に共通した計算方法
※健康保険料:東京都世田谷区 平成30年度世帯の国民健康保険料の計算式
※介護保険料:未加入。
※国民年金:日本年金機構:国民年金第1号被保険者及び任意加入被保険者の1カ月当たりの保険料(16,340円(平成30年度))
※所得税:国税庁:基礎控除38万円と「所得税の速算表」を元に計算しています。ただし、計算途中に必要となる端数処理は適用していません。
※住民税:東京都の住民税率10%、都民税額(1,500円)、区市町村民税額(3,500円)を元に計算しています。ただし、計算途中に必要となる端数処理は適用していません。
※国民年金基金と小規模企業共済以外の所得控除(例:医療費控除、生命保険料、配偶者控除など)は適用していません。


個人事業主が貰える年金を増やすには

個人事業主が貰える年金を増やすには、 以下の様な公的あるいは私的年金制度を活用することができます。
年金を増やす方法一覧
  • 国民年金基金
  • 付加年金
  • 小規模企業共済(※)
  • 個人年金保険
  • iDeCo(個人型確定拠出年金)
備考
※小規模企業共済は、個人事業主のために用意された「退職金制度」のため、年金制度とは異なりますが、 年金制度と同じ恩恵(所得控除、運用益による将来所得の増加)があるため、年金対策に含めています。

年金対策 各商品の概要

個人事業主(自営業やフリーランス)の年金対策に利用できる各商品の概要です(詳細は後述)。

会社員や公務員はこれら商品への加入資格がないか、 または、内容(掛け金額、節税効果、運用方法)が異なるため、ご注意下さい。

年金対策の各商品の特徴
商品名 掛金最大額/年
(月)
節税効果 増える年金額
国民年金基金 816,000円
(68,000円)
全額所得控除 年齢、性別、商品によって利率が異なる。
付加年金 4,800円
(400円)
全額所得控除 毎年最大96,000円年金額が増える。
小規模企業共済(※) 840,000円
(70,000円)
全額所得控除 100~120%(廃業や死亡以外の自己都合による脱退時は100%未満あり)。
個人年金保険 ∞(制限なし) 所得税:最大4万円、住民税:最大2.8万円 100%~130%程度(商品により異なる)。
iDeCo(個人型確定拠出年金) 816,000円
(68,000円)
全額所得控除 元本保証型と投信型があり、投信型はリターンも大きいが、リスクも大きい。

備考:

国民年金基金

国民年金基金は、自営業者(第1号被保険者)のために用意された公的な年金制度で、 以下のような特徴があります。
国民年金基金の特徴(※1)
  • 全額所得控除の対象
  • 終身(死ぬまで)と確定(指定した年齢まで)で様々な商品が選べる
  • 会社員の厚生老齢年金の意味合いが強い
具体的には、国民年金基金への加入で、 以下の様な上乗せ年金額を受け取ることができます。
国民年金基金によって増える年金額の例(※2) 30歳でA型6口「掛金月額35,595円(427,140円/年)30年払込」に加入した場合:

毎年加算される年金額:月額7万円(84万円/年)
国民年金基金のサイトで、 性別、年齢、所得(年収)を入力することで、 より正確なご自身の年金額、節税額のシミュレーションを行うことができます。

備考・参照
※1:国民年金基金連合会「国民年金について」
※2:国民年金基金「年金額シミュレーション」(2018年)

付加年金

付加年金は、国民年金と同じ日本年金機構が運営する個人事業主(国民年金第1号被保険者)に開放された年金制度です。

付加年金の特徴
  • 全額所得控除の対象
  • 掛金額は月額400円と安く、わずか2年間の加入で元が取れる
  • 定額給付のため、物価スライド(増額・減額)はない
具体的には、付加年金への加入で、 以下の様な上乗せ年金額を受け取ることができます。
付加年金によって増える年金額の例(※1) 40年(21~60歳)付加年金に加入した場合:

毎年増加する年金額:96,000円(月額8,000円)
付加年金によって増える年金額は「200円×付加保険料納付月数」です。
そのため、わずか10年(120ヶ月)でも、毎年24,000円年金が増加します。

備考・参照
※1:日本年金機構:「付加保険料の納付のご案内」

小規模企業共済

小規模企業共済は、中小機構が運営する個人事業主のために用意された退職金制度です。
小規模企業共済の特徴(※1)
  • 全額所得控除の対象
  • 掛金額は月額1,000円~70,000円(最大84万円/年)
  • 廃業や死亡など事業継続ができない場合は共済金が全額戻ってくるが、自己都合解約の場合の解約手当金(戻ってくるお金)は100%を下回る(※1)
小規模企業共済によって増える年金額の例(※1) 小規模企業共済は、加入月数によって戻ってくるお金が異なります。
  • 84ヶ月(7年)未満は80%
  • それ以降段階的に上昇し、240ヶ月(20年)で支給額が100%
  • 最高で120%まで上がる
240ヶ月(20年)未満でも解約手当金(または共済金:戻ってくるお金)が100%になるケース
  • 廃業
  • 死亡
  • 老齢給付(65歳以上で180か月以上掛金を払い込んだ方)の場合
小規模企業共済でも 所得(年収)と加入年数、掛金額を入力することで、 より正確なご自身の共済金額、節税額のシミュレーションを行うことができます。

備考・参照
  • ※1:中小機構「小規模企業共済 制度のしおり(平成28年4月改訂版)」

個人年金保険

個人年金保険は、生命保険会社が販売している個人年金です。

生命保険料扱い(うち年金部分)のため、 所得控除は最大4万円(住民税は2.8万円)しかないものの、 利率が105~130%以上と非常に高く、 銀行預金と比較すると非常に良いのが特徴です。

個人年金保険の特徴
  • 生命保険会社が販売する私的年金
  • 所得控除は最大4万円(住民税は2.8万円)
  • 掛金額の上限はなし
  • 利率が良い商品が多い
  • 年金保険のため、他の年金同様最小の受け取り年齢は60歳であることが多い
個人年金保険によって増える年金額の例
  • 掛金月額1万5千円、40年(払込総額720万円)、65歳受取、15年確定年金の場合  ・・・年金受取率138%(受取総額:997.0万円)

  • 掛金月額3万円、40年(払込総額1,440万円)、65歳受取、15年確定年金の場合  ・・・年金受取率139%(受取総額:2,003.4万円)
各社、所得(年収)年齢、商品、掛金額を入力することで、 より正確なご自身のシミュレーションを行うことができます。

備考・参照
参考:住友生命「たのしみワンダフル」

iDeCo(個人型確定拠出年金)

iDeCo(個人型確定拠出年金)は国民年金基金連合が運営主体でありつつも、 その商品は民間の各金融機関に委託されており、 現在、約160の金融機関(運営管理機関)がiDeCoを取り扱っています。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
  • 全額所得控除の対象
  • 掛金額は5,000円/月~6.8万円(年81.6万円)
特に、「元本保証型」と「 投資信託型」について
  • 運用商品は大きく「元本保証型」と「 投資信託型」に分かれる。
  • 投資信託型は、運用方法は本人が決めるため、株式投資と同様のリスクがあるが、リターンも大きい
  • 元本保証型は、元本は100%戻ってくるものの、運用益は銀行の普通預金程度
備考・参照
参考:国民年金基金連合会、iDeCo公式サイト「iDeCoをはじめよう」