自営業やフリーランスという仕事は、 若い頃は需要も多く行動力もあるため、 収入は正社員よりも多くなることもしばしばです。
しかし、この自営業(フリーランス含む)の収入は、 一生涯という長い目で見ると、 イソップ物語「アリとキリギリス」にとてもよく似ているため、注意が必要です。
正確にいうと、 自営業はアリのように働いても、 税金(税率)が高く、老後も貰える年金が少ないため、 イソップ物語のキリギリスよりも悲惨な老後になる可能性があります。
そうならないためにも、 自営業やフリーランスは絶対に老後に備える貯金が必要です。
ここでは、自営業、フリーランスなど個人事業主が 普通の老後を送るために必要な貯金額について、検証しています。
■目次
自営業はなぜ貯金しないといけないのか
自営業やフリーランスが貯金しなければいけない理由は、以下の通りです。
自営業に貯金が必要な理由
- 年金の違い
- 退職金を貰えない
年金の違い
自営業と正社員では年金に違いがあります。自営業が老後貰える年金は国民年金ですが、 会社員(正確には厚生年金保険料納付者)は国民年金にプラスして老齢厚生年金が貰えます。
年金の違い
厚生労働省の資料(※1)によると、
平均的な会社員が貰える老後の年金額(厚生年金)は221,277円/月です。- 自営業・・・国民年金
- 会社員・・・国民年金+老齢厚生年金
一方、自営業が貰える年金額(国民年金)は64,941円/月です。
年金額の違い(毎月 ※1)
この老後に貰える年金額の差は3.4倍となります。- 自営業・・・ 64,941円
- 会社員・・・221,277円
また、この年金受給額の差は年金受領開始(65歳)から死亡するまで続くため、 実に総額3,018万円(※2)の差になります。
備考、参照:
※:会社員の年金額は配偶者の国民年金込の金額です。 一方、自営業の年金は単身の年金額です。
これは、会社員の配偶者は3号被保険者のため、無料(掛け金なし)で年金を貰えるものの、 自営業の配偶者の年金は全額自己負担のため、 比較を等しくするため、 自営業の配偶者の年金は掛金、受取年金とも老後に備えて貯金すべき額として扱っています。
※1:厚生労働省「平成30年度の年金額改定について」
※2:厚生労働省「1 主な年齢の平均余命(平成29年)簡易生命表 男の平均寿命」81.09歳より
退職金の違い
正社員の77.8%は退職金を貰えます。また、大企業(従業員1,000人以上)に限って言えば、 92.3%が退職金を貰えます。この退職金の額は大学卒で平均1,983万円、高校卒で1,618万円です。
高齢者世帯では、この退職金を切り崩して生活していることが多く、 自営業者もこの退職金に相当する額を貯金し備える必要があります。
備考、参照:
※厚生労働省「退職給付(一時金・年金)の支給実態 (平成30年)」
老後の平均的な生活費
総務省によると、高齢者無職(年金受給)世帯(2人以上)の1ヶ月平均支出額は246,085円です。これは、正社員が月々貰える年金収入(221,277円/月)を上回ります。
また、高齢者無職単身世帯(60歳以上)の1ヶ月平均支出額は148,358円です。
一方、自営業が月々貰える年金額はわずか64,941円のため、 単身世帯、2人以上世帯のどちらも、年金収入だけでは生活費が大幅に不足します。
老後の毎月の生活費と不足額
生活費 | 年金では不足する金額 | |
単身 | 148,358円 | -83,417円 |
2人以上 | 246,085円 | -181,144円 |
また、この総務省の資料では、 住居費平均額はわずか15,372円しか、かかっていないため、 老後が借家の場合、さらに多くの生活費が必要になります。
備考、参照:
※総務省統計局「高齢者の家計(高齢無職世帯家計収支(平成25年:二人以上の世帯))」
※総務省統計局「総世帯及び単身世帯の家計収支 (年齢階級別家計支出(単身世帯)-2017年-)」
自営業に必要な毎月の貯金額
上述のように、 老後の正社員との違い(年金と退職金)は、 約5,000万円(年金の差3,018万+退職金1,983万)の差になります。この差を就労期間(21~60歳)の間に貯金しなければ、 会社員と同じ平均的な老後を過ごすことができません。
この会社員と同じ平均的な老後を過ごすには、毎年125万(月々10.4万円)の貯金が必要です。
自営業に必要な毎年(月)の貯金額
- 毎年・・・125万円(=5,000万円÷40年)
- 毎月・・・10.4万円(=125万円÷12ヶ月)
生活費から逆算した必要な貯金額
会社員との比較でなく、 老後の平均的な生活費から逆算した場合、 必要な貯金額は少し安くなります。単身世帯で老後に必要な生活費は毎月148,358円必要ですが、 自営業が受け取れる年金額(64,941円/月)では、毎月83,417円不足します。
この不足が死ぬまで(16.09年=65歳~81.09歳)発生するため、 総額で1,610万円(83,417円×16.09年)不足します。
この不足額を就労期間40年(21歳~60歳)で貯金する必要があるため、 毎月33,554円(1,610万円÷40年×12ヶ月)貯金する必要があります。
また、二人以上世帯も同様の計算で老後に必要な貯金額がわかります。 ただし、年金の受給者が本人のみ(64,941円/月)か、配偶者も含む(64,941円×2人分/月)かで不足額が大幅に変わります。
世帯 | 老後不足総額 | 毎月必要な貯金額 |
単身 | 1,610万円 | 33,554円 |
2人以上(年金1人分) | 3,497万円 | 72,865円 |
2人以上(年金2人分) | 2,243万円 | 46,743円 |
備考
※2人以上世帯(年金2人分)では、年金収入を2人分(129,882円=64,941円×2人)としていますが、 そのために必要な毎月の年金掛金(16,430円)は毎月必要な貯金額(46,743円)には含まれていません。
配偶者の年金も含めた場合、毎月必要な「貯金+配偶者年金掛金」額は63,173円となるため、 2018年現在の年金制度では、ご自身で銀行に貯金するよりも、 国民年金として支払った方が月々9,692円(72,865円-63,173円)お得になります。