プロ野球選手の手取り額を計算してみた



プロ野球選手は年俸が高額(何千万、何億円)であるがゆえに、 ものすごくお金持ちのイメージがあります。

しかし、日本は所得が高くなるほど所得税率が高くなる「累進課税」を適用しているため、 実際の手取り額がいくらぐらいなのか、分かりにくくなっています。

そこで、プロ野球選手の年俸に対する手取り額を、きちんと計算してみました。
(計算に関わる詳細は備考をご参照下さい。)

■目次

プロ野球選手と会社員の税金の違い

プロ野球選手の年俸とは、会社員でいう年収を示します。

会社員の場合、年収から社保(健康保険、厚生年金、雇用保険)と税金(所得税、住民税)が引かれて手取り額となりますが、 プロ野球選手の手取り額の計算は少しだけ異なります。

プロ野球選手の税金・社保の特徴 会社員との違い
  • 年俸(年収)に消費税がかかる(※1)
  • 雇用保険はない(そのため失業しても失業保険は貰えない)
  • 会社員の所得税は毎月引かれる(※2)が、プロ野球選手は個人事業主のため、 翌年に納付する
  • 健康保険料が高い(会社員は半額を会社が負担してくるため安い)(※3)
  • 年金は厚生年金ではなく、国民年金
  • 配偶者の年金の掛け金が全額自己負担(会社員の配偶者は無料)
  • 給与所得控除(※4)が適用されないため、税金が高くなる(※5)
自営業(個人事業主)との違い
  • 個人事業税(3~5%)の対象外である(※6)
備考:
※1:国税庁:消費税「プロスポーツ選手の事業区分」より、プロスポーツ選手は「第五種事業に該当するもの」として取り扱われる
※2:国税庁「月額表の甲欄を適用する給与等に対する税額の電算機計算の特例について」より
※3:親会社が所属する健康保険組合に参加できる場合もある
※4:会社員に認められた領収書不要の経費。収入に応じて65万~220万円。年末調整で適用され、税金が安くなる
※5:青色申告している場合、青色申告特別控除(65万円)が適用されるが、上記給与所得控除と比較すると、控除額が少ないという特徴がある
※6:東京都主税局:地方税法等で決められた事業(法定業種70種)にプロスポーツ選手は該当しないため


年俸別 手取り額

以下、プロ野球選手の年俸別の手取り額です。
手取り額の計算に関わる詳細は備考をご参照下さい。

プロ平均年俸(3,955万円)の手取り額

プロ野球選手の平均年俸(3,955万円)(※1)の場合、 税率(※8)は46%、手取り金額は2,140万円です。

また、月々に使えるお金(手取りの12分割)は178万円になります。

年収 3,955万円
健康保険料(※2) 77万円
介護保険料(※3) 0
年金(※4) 19万円
所得税(※5) 1,222万円
住民税(※6) 376万円
消費税(※7) 118万円
手取り額 2,140万円
税率(※8) 46%

プロ大台突破年俸や契約金(1億円)の手取り額

プロ野球選手の年俸1億円の場合、税率(※8)は53%、手取り金額は4,691万円です。

また、 月々に使えるお金(手取りの12分割)は390万円になります。

年収 1億円
健康保険料(※2) 77万円
介護保険料(※3) 0
年金(※4) 19万円
所得税(※5) 3,930万円
住民税(※6) 981万円
消費税(※7) 300万円
手取り額 4,691万円
税率(※8) 53%

プロ最高年俸(5億5千万円)の手取り額

プロ野球選手最高年俸(5億5千万円)(※1)の場合、 税率(※8)は57%、手取り金額は2億3,623万円です。

また、 月々に使えるお金(手取りの12分割)は1,968万円になります。

年収 5億5千万円
健康保険料(※2) 77万円
介護保険料(※3) 0
年金(※4) 39万円
所得税(※5) 2億4,137万円
住民税(※6) 5,472万円
消費税(※7) 1,650万円
手取り額 2億3,623万円
税率(※8) 57%

ドラ1初年度年俸(1,000万円)の手取り額

新卒ドラフト1位指名される選手によく採用される年俸(1,000万円)の場合、 税率(※8)は33%、手取り金額は671万円です。

また、 月々に使えるお金(手取りの12分割)は55万円になります。

年収 1,000万円
健康保険料(※2) 77万円
介護保険料(※3) 0
年金(※4) 19万円
所得税(※5) 120万円
住民税(※6) 81万円
消費税(※7) 30万円
手取り額 671万円
税率(※8) 33%


年俸別 手取り額一覧

また、一覧にすると、以下の通りです(全て独身の場合で計算)。

配偶者がいる場合は税率は少し低くなりますが、 年俸が高いため、ほとんど影響しません。 (1億円で0.2%、5億円で0.04%)

年収 手取り額 税率
500万円 363万円 27%
800万円 544万円 32%
1,000万円 671万円 33%
3,000万円 1,691万円 44%
5,000万円 2,591万円 48%
8,000万円 3,851万円 52%
1億円 4,691万円 53%
2億円 8,891万円 56%
3億円 1億3,091万円 56%
5億円 2億1,491万円 57%
8億円 3億4,091万円 57%
10億円 4億2,491万円 58%


会社員と比較した場合、どれくらい多くの税金を払っている?

プロ野球選手と会社員が同じ年収1,000万円の場合、 プロ野球選手は税率が7%高くなり、手取り額は65万円少なくなります。(※9)

このプロ野球選手と会社員の税率(※9)の差は年収(年俸)が高くなるほど小さくなりますが、 年収そのものが大きいため、手取り額では大きな差となります。

年収1億円の場合、税率の差はわずか4%ですが、 手取り額では347万円も少なくなります。(※9)

プロ野球選手の年俸は高いのか

プロ野球選手の年俸が高いか低いかは比較対象によって異なりますが (MLBと比較すると安いし、球団経営という視点では適正とも言えるなど)、 ここでは、プロ野球選手の年俸と在籍年数から見た金額で考えたいと思います。

プロ野球選手の平均在籍年数は8.9年(※10)です。
また、プロ平均年俸は3,955万円(手取り2,140万円)です。

この条件だけで単純計算すると、 現役引退までに稼ぐ年俸総額は3億5,199万円となり、 会社員の生涯年収2億1280万円(※9)と比較すると1億3,919万円多くなります。

つまり、8.9年、プロ平均年俸(3,955万円)で活躍すれば、 その後、一切働かなくとも、一般的な会社員と同水準またはそれ以上の暮らしができるため、 年俸は高いといえます。

一方、プロ野球選手の在籍年数の最頻値はわずか4年(※10)のため、 ほとんどの人は一軍にすら登録されることなく、 プロ野球生活を終えます。

これら選手の年俸はプロ最低保障である420万円(※11)程度となり、 会社員と同程度の年収しか貰えません。

また1軍で長く活躍する選手の割合を考慮すると、 リスクの割に、 プロ野球選手の年俸は少し安いかも・・・と個人的には感じます。



備考・参照:
計算について:
※:社保、税金の計算途中に必要となる端数処理はしていません。
※:計算は全て1円単位で計算していますが、わかりやすさを重視し、1万円未満を切り捨てて表記しています。
※:年俸額5億5千万円のみ、配偶者1人子供1人で計算し、他の年俸(3,955万、1,000万、1億)は全て独身者として計算しています。
※:所得控除は「社会保険料控除(健康保険、年金)」「基礎控除」「配偶者控除」「扶養控除」「青色申告特別控除(65万円)」のみ適用し、 他の所得控除(生命保険、医療費、小規模企業共済、震災など)は全て0円で計算しています。


※1:日本プロ野球選手会公式「年俸調査結果 発表」より
※2:東京都世田谷区:「平成29年度 世帯の国民健康保険料の計算式 」より、計算しています。
※3:介護保険料は0円で計算しています。
※4:年金は国民年金とし、日本年金機構の「平成30年の国民年金の保険料」より、月額16,340円とし、 12ヶ月を乗じて19万円としています。
※5:国税庁:基礎控除38万円、配偶者控除38万円、扶養控除38万円と、「所得税の速算表」を元に計算しています。
※6:東京都主税局:個人住民税の所得控除より、基礎控除33万円、配偶者控除33万円、扶養控除33万円と、 東京都の住民税率10%、都民税額(1,500円)、区市町村民税額(3,500円)を元に計算しています。
※7:国税庁より、平成29年の消費税率8%と、みなし仕入率50%(第五種事業)を適用して、消費税の簡易課税制度を用いて計算しています。
※8:「税率=(社会保険料合計額+税金合計額)÷年収」としています。
※9:国税庁:平成29年分民間給与実態統計調査結果「一人当たり男性平均給与」より、 532万円を元に、勤続年数40年を乗算しています(退職金は含まれていません)。
※9:会社員の年収、手取り額の計算は、社会保険料の計算に以下を用い、他は全て同じ計算式を用いてます。
  • 全国健康保険協会「平成30年4月分(5月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」
  • 雇用保険料は「平成29年 一般事業の場合、労働者負担3/1000」を用いて計算しています。
※10:BaseballLABより
※11:日本プロフェッショナル野球協約2017 第89条 (参稼報酬の最低保障)より、 「支配下選手の参稼報酬の最低額は、年額420万円とする」を用いています。