独身税は日本でも既にある。その金額とは?


少子化、晩婚化、年金など日本の様々な社会問題を解決する方法の一つとして、 「独身税を課してはどうか?」とSNSなどを中心に、一部の人々に支持されています。

一方、「独身税」を設けることで、 さらなる貧富の拡大や少子化に拍車をかけるのでは?、という指摘もされています。

これら独身税の良し悪しの議論はさておき、 名称は「独身税」ではないものの、 日本では既に「独身税」は存在しています。

より正確には、独身者であることは、扶養者がいる人よりも多くの税金を支払っています。

ここでは特に、日本で独身であることにより、 どれくらい多くの税金を支払っているか、 その実際の金額について調査しています。

■目次

独身税は日本でもすでに取られている

日本で、独身による金銭的なデメリット(以下、独身税という)は、 扶養対象者(配偶者や子供など)がいる場合と比較した場合に、 より多くの税金を支払わなければならないことです。

また、独身である理由の一つに「低所得」がありますが、 扶養対象者(配偶者や子供など)がいる場合には、 補助金として、より多くの社会保障が貰えます。

そのため、独身であることは、 以下のような金銭的デメリットがあります。

独身による税金と社会保険のデメリット ■より多くの税金を支払う
  • 所得税が高い(同じ年収の場合)
  • 住民税が高い(同じ年収の場合)
■貰える手当(社会保障)が少ない
  • 児童手当
  • 年金3号問題
以下、独身にとっての税金と手当(社会保険)のデメリットについて、 紹介しています。

より多くの税金を支払う

独身の人も結婚している人も、年収(正確には課税対象額)が同じ場合、税率は同じです。

しかし、配偶者がいる人の納める税金が安くなるのは、 年収から「配偶者控除」という金額(33万または38万)が引かれるため、 税金の計算の元となる金額(課税対象額という)が安くなるためです。

反対に、 独身者の人が納める税金額が高くなるのは、 税金の計算の元となる金額(課税対象額という)が配偶者がいる人と比較すると 相対的に高くなるためです。

簡単な例を挙げると(正確な計算は後述)、 同じ給与年収500万円(額面)で税率が10%の場合、

独身者の税金が高くなるからくり
  • 単身者の場合・・・・・500万×10%=50万円(※1)
  • 結婚している場合・・・(500万-38万)×10%=46万円(※1,2,3)
多く支払う年間の税金=4万円(50万-46万)
となり、同じ税率でも、税金の計算の元となる金額が高いため、 納める税金が高くなります。

備考:
比較をより分かりやすくするため、以下の条件で計算しています。
※1:配偶者控除以外の他の所得控除(給与所得控除、本人基礎控除、社会保険料、生命保険、医療費など)は省略しています。
※2:「結婚している場合」は配偶者1名で計算しています。
※3:配偶者控除は2018年の所得税に関わる配偶者控除38万円で計算しています。
(住民税の配偶者控除33万円は適用していません。)

貰える手当(社会保障)が少ない

配偶者や子供がいる世帯は、単身者には支給されないお金を貰うことができます。

児童手当の金額は地域、対象児童の年齢によって異なるものの、おおよそ毎月10,000~15,000円(※1)程度もらえます。

また、月々16,340円(※3)支払うべき国民年金保険料について、 会社員(※2)の配偶者で、かつ、働いていない(収入が少ない場合も含む)場合、 国民年金を支払う必要がなく(無料)、かつ、老後には満額の年金を受取ることができます。

これら社会保障(児童手当、年金)は、 独身者本人から直接徴収される税金ではないものの、 同じ金額(住民税、年金)を支払っても独身者は貰えません。

そのため、独身者の立場で負の側面だけを見ると、 ある意味みえない独身税と捉えることができます。

(本来は「低所得」「妻を養えない」といった金銭問題を少しでも助けてくれる、 独身者にとっても良い社会保障です。)

備考:
※1:児童手当の支給額は東京都の例。ただし、所得上限に引っ掛からな場合。
※2:正確には厚生年金対象者です。そのため、自営業の配偶者には適用されません。
※3:日本年金機構「2018年度の国民年金保険料月額」より



日本人の平均年収で生涯に払う独身税額

日本人男性(正社員)の給与平均年収532万円(※1)を例に取ると、 独身者は月々6,000円、年間7.1万円も多くの税金を支払います(以下計算詳細)。

独身 配偶者1人 差額
年収(※1) 5,320,000 0
健康保険料(※2) 261,360 0
介護保険料(※3) 0 0
厚生年金(※2) 483,120 0
雇用保険料(※4) 15,960 0
所得税(※5) 160,056 122,056 38,000円
住民税(※6) 270,056 237,056 33,000円
手取り額 4,129,448 4,200,448 -71,000円


配偶者ありの人と比較した場合、 この1年あたりの差額を人の就労期間(40年=21~60歳)で計算すると、 独身者は284万円も多く税金を支払います。

(子供がいる場合と比較したり、 60歳を超えて働く場合には、更に多くの税金を支払います。)

これに加えて、 配偶者が掛け金0円で貰える年金を加味すると、実に1,998万円も手取り額が少なくなります。(※7,8)

独身 配偶者1人 差額
所得税 40年分(21~60歳) 1,520,000
住民税 40年分(21~60歳) 1,320,000
配偶者の年金(※7,8) 0 17,144,600 17,144,600
合計差額 19,984,600


備考:
※1:国税庁:平成29年分民間給与実態統計調査結果「一人当たり男性平均給与」を元に計算しています。
※2:全国健康保険協会「平成30年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)」を元に計算しています。
※3:介護保険料は0円で計算しています。
※4:雇用保険料は厚生労働省「平成30年度の雇用保険料率」の「一般の事業 労働者負担3/1000」を適用しています。
※5:国税庁:基礎控除38万円、配偶者控除38万円と、「所得税の速算表」を元に計算しています。ただし、計算途中に必要となる端数処理は適用していません。
※6:東京都の住民税率10%、都民税額(1,500円)、区市町村民税額(3,500円)を元に計算しています。ただし、計算途中に必要となる端数処理は適用していません。
※7:総務省統計局:「平成28年、日本人女性の平均寿命」より、87.14歳を用いて、 年金受給年数を22年(87-65歳)とし、日本年金機構の年金受給額(※8)を乗算しています。
※8:日本年金機構:「平成30年4月分からの年金額 779,300円(満額)」を用いています。

年収別独身税額 一覧

年収別では、毎月、毎年あるいは一生涯(40年分の就労期間)で納める独身税額は以下の通りです。

年収別 独身税総額
年収 月額(円) 年額(円) 40年(円)
200万円 2,954 35,452 1,418,080
300万円 4,125 49,500 1,980,000
400万円 4,125 49,500 1,980,000
500万円 5,877 70,526 2,821,040
600万円 5,917 71,000 2,840,000
700万円 9,083 109,000 4,360,000
800万円 9,083 109,000 4,360,000
1,000万円 9,083 109,000 4,360,000
2,000万円 13,200 158,400 6,336,000
3,000万円 15,417 185,000 7,400,000
1億円 17,000 204,000 8,160,000

独身税まとめ。独身税額は妥当か?

年間の独身税71,000円で配偶者を扶養することは、到底不可能です。

そのため、配偶者ありまたは扶養配偶者の立場から見た場合、 この金額は明らかに「安い」と言え、生活が苦しい世帯には、 不満が残るかもしれません。

一方、独身者の立場からすると、 「独身者である」という理由だけで、 年間71,000円、生涯で284万円も多くの税金を支払うことは、 あまり納得できるものではないでしょう。

しかし、独身税は表向きの名称は「配偶者控除+年末調整」として処理されるため、 ほとんどの独身者は気づいておらず、 問題視されません(名称を独身税にした場合、未婚率が上がっている現在の日本では、 猛反発をくらうでしょう)。

また、独身税のもう一つの側面( 退職後に配偶者が貰える年金)を考慮した場合、 十分な金額ではないものの、 独身者と比較すると老後世帯の生活水準が少し良くなる金額が貰えます。

20~60歳 65歳以上
独身者の立場 税金は少し高くなるが、気づいていない、または、安いので我慢できる。 特になし
配偶者ありの立場 税金は少し安くなるが、配偶者を扶養するには不十分である。 配偶者の年金分、生活が少し潤う。


そのため、現在の独身税は、単身者、配偶者ありのお互いが、 お互いに不満はあるものの、 納得できる落とし所であると思います。